第292号
記事番号:29202 発行日:2018/02/25
 

連 載 研究推進 東海大学の科研費獲得戦略

〔第8回〕科研費獲得事例紹介②

 研究者が学術研究を進める上で重要な原資になるとともに、その獲得件数や獲得額が大学の研究力評価の指標にもなっている「科学研究費助成事業(科研費)」。『VISTA』では、この科研費に焦点を当て、2018年度から行われる抜本的な科研費の制度改革や東海大学としての科研費獲得支援策、さらには科研費によって大きな研究成果をあげている学内研究者の事例などを連載で紹介しています。
 連載8回目は、科研費獲得事例として、東海大学国際文化学部地域創造学科の乾淑子(いぬい よしこ)教授と東海大学農学部バイオサイエンス学科の木下英樹(きのした ひでき)講師にそれぞれお話を伺いました。

採択者の声VOICE ①
東海大学国際文化学部 地域創造学科 乾 淑子教授

ご自身の研究における科研費の重要性、および科研費に採択された研究テーマについてお聞かせください。

乾:
 2006~07年度に萌芽研究、11~13年度は基盤研究(C)、14~16年度は基盤研究(C)、そして17~ 20年度は基盤研究(B)の科研費に採択されています。そのほかにもトヨタ財団や鹿島美術財団をはじめとして、いくつもの民間の助成金をいただいています。採択されたテーマは近代の服飾や戦争美術、絵本など多岐にわたります。これらの研究テーマを追求する上で、私が所属する札幌キャンパスは、首都圏に比べて制約を受けざるを得ないのは事実です。資料は東京や京都・大阪に多く残っており、調査に出向くにも高額な交通費を要します。また、現物資料を購入する必要性も時に出てきます。そうした中で科研費による財政的支援は非常にありがたく、おかげで研究が進捗したことは確かです。
 服飾の変化には、社会インフラや人々の考え方を含めた、その時代の社会的な背景が大きく影響しています。逆の言い方をすれば、服飾の変化を追えば、日本の近代化の一つのあり方がわかります。また、近代の服飾がほとんど理解されていないことも、この研究の動機になっています。私の研究では、近代の服飾の変遷や背景から、まだ明らかになっていない歴史的事実を浮き彫りにし、社会に提示しています。

研究計画調書作成にあたってのポイント、学内研究者へのメッセージをお聞かせください。

乾:
 本来、調書作成のコツなどはなく、科研費の採択水準に達している調書であれば採択されるはずですが、現状に照らしてみると、やはりコツは存在すると思います。私が心がけているのは、できるだけ具体的に表現すること、そして、一般の方が読んでも理解できるくらいわかりやすく書くことです。この“わかりやすく”というのが実は自分だけでは難しい。自分がわかっていると、他人もわかるだろうと、思い込みがちです。そこで、一度書いたものを第三者に見てもらい、わかりやすいかどうかをチェックしてもらうことが有効です。第三者に相談することで、自分の中の考えがまとまることもあります。また、私がさまざまな分野の方々の科研費獲得のお手伝いをしてきて思うのは、早めに相談することの大切さです。締切直前に相談されても小手先の手法しかお伝えできません。3カ月あれば何回かのやり取りを通じて、ブラッシュ・アップできます。
 私はこれまで絵本や環境教育など、その時々に興味を持ったものを研究テーマとしてきました。かつては、研究者としてのキャリアを築こうという気持ちもあまりなかったのですが、今になって思えば、それらの研究が現在の研究につながっています。興味・関心を掻き立てられるような事象があれば、その興味に蓋をせず、研究対象として取組んでみることも大事だと思います。
 理工系・文系を問わず、ちょっとずらした視点で対象を観察することも大切です。近接分野の研究者をマッチングするような仕組みがあれば、自由で活発な研究活動が推進され、ひいては学内の研究がより活性化するのではないかと期待しています。


▲科研費を活用して収集した資料

採択者の声VOICE ②
東海大学農学部 バイオサイエンス学科 木下英樹講師

ご自身の研究における科研費の重要性、科研費による研究の成果についてお聞かせください。

木下:
 科研費以外にも財団などがさまざまな研究費を助成していますが、その大半は単年度のもので、極めて短期間での成果を求められるものがほとんどです。もちろん科研費も成果は求められますが、2年ないし3年と安定的に研究資金を助成してもらえるため、腰を据えて研究に取組むことができるのが、ほかとは一線を画す点ではないでしょうか。
 私は乳酸菌が持っている多機能性タンパク質の研究を行っており、2015年~17年に科研費の若手研究(B)で採択されました。現在は18年度からの基盤研究(C)に申請中です。近年、腸内環境が人間の健康に大きな影響を及ぼすことがわかってきました。その中でも乳酸菌は非常に重要な働きをしています。乳酸菌が持つ機能は多種多様ですが、私は多機能性を持つタンパク質に注目して研究しています。「GAPDH」というタンパク質を例に挙げると、GAPDHは乳酸菌の内部では解糖系酵素として働いていますが、菌体表層にも大量に発現し、乳酸菌が腸に留まるための付着因子として働いていることを明らかにしました。ほかにもさまざまな機能を有していると考えられ、GAPDH以外のタンパク質も含め現在その多機能性を解析しているところです。

研究計画調書作成にあたってのポイント、学内研究者へのメッセージをお聞かせください。

木下:
 調書作成で最も気を付けているのは、あまりに難解な専門用語は使わず、全く違う分野の方が読んでもわかるように書くことです。そのほかには、文字のフォントなどを工夫し、特に訴えたい部分は下線を引いたり太字にしたりするなど、読みやすくする努力をしています。また、科研費の審査では当該研究の「実現性」も重要視されると思いますので、例えば予備実験や予備検討での結果を図にして調書の中に組み込むなどの工夫も行っています。
 研究者にとって怖いのは、お金がないから研究ができない、研究ができないから論文が出せない、論文が出せないから外部資金を獲得できない、という“負のスパイラル”に陥ることです。科研費の獲得は、安定して得られる研究資金という意味でも非常に重要です。また、東海大学には科研費に採択されなかった場合に、次の採択に向けて受けられる総合研究機構の「研究奨励補助計画」があります。さらに、生命科学統合支援センター(伊勢原キャンパス)や技術共同管理室(湘南キャンパス)では実際の研究の支援を受けることができます。負のスパイラルに陥ることなく研究を進めていくためには、こうした学内のサポートを積極的に活用することも有効だと思います。
 科研費という、いわば公的資金を使った大学での研究の成果は、社会に還元されて初めて意義あるものとなります。今後もバイオサイエンス分野の研究者として、人類の福祉の向上に少しでも寄与できるような研究を続けていきたいと考えています。


▲培養中の菌を確認する木下講師


東海大学研究推進部 技術共同管理室

2016年度学内利用件数は7,795件。文部科学省の先端研究基盤共用促進事業に採択


東海大学研究推進部
技術共同管理室 室長 宮本 泰男

 東海大学研究推進部技術共同管理室(以下、本施設)は、理工系学部共用の分析センターとして2000年、湘南キャンパス17号館に開設しました。研究室単位では所有できないような大型・高額の研究装置を一カ所に集約し、共同利用することを目的としています。また、学内で同じ装置を何台も所有するような無駄を省くという狙いもありました。開設当初は8台の装置を設置し技術職員1名でスタートしましたが、現在は30台の装置を技術職員3名で管理・運用しています。
 本施設の装置を利用しているのは、16年度実績で、主に湘南キャンパスの4学部16学科の研究者、大学院生および学部生です。学内の利用は7,795件、総稼動時間は13,574時間に上ります。なお、本施設の利用は湘南キャンパスのみならず、他キャンパスの研究者も可能です。また、学外にも施設を開放しており、主に卒業生や近隣の企業にご活用いただいています。16年度の企業の利用件数は70件でした。
 利用者にはまず技術職員が装置の使用方法を指導し、問題なく使用できると認定された利用者は自身で装置を使うことを可能としています。また装置利用の際には、利用者負担として学内外別に設定した利用料をいただいています。
 本施設は、文部科学省の平成29(2017)年度先端研究基盤共用促進事業「新たな共用システム導入支援プログラム」に採択されました。これは大学が導入した研究設備・装置を学内外問わず開放し、複数の研究者等が共用して有効活用することを目的としたものです。本施設ではこの事業を推進し、研究成果などの創出、研究者の負担軽減、学生教育、若手研究者の研究スタートアップ時におけるサポートなどをこれまで以上に推進していきます。
 最後に、本施設は熟練した技術職員が常駐していますので、研究者の皆様だけでは困難だと思われるような実験・分析などについても是非一度ご相談いただければと思います。


▲核磁気共鳴装置


▲走査型X線光電子分光分析装置



編集・発行/学校法人東海大学理事長室広報課
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